初代 桂 枝雀の逸話

仕事で失敗して落ち込んでいると、
噺家さんの失敗談に思いの外、
心が軽くなるものです。

『上方はなし』に時々、
名前が出る初代桂枝雀は、
何だか可愛いエピソードが色々ある
噺家さんでその部分を抜粋させてもらいます。



『上方はなし』に中井浩水さんが投稿された文章です。


「あの頃」

 私の極蕩時代――というと
はなはだキザに聞こえるが、
これも本当に若気のいたりの、色町に半月も流連していた頃、
もう故人になった新町の狸の叶丸が枝雀と円馬とをよんで来た。
枝雀は白痘痕のある長い顔の、
よくしゃべる古い枝雀のことで、
円馬は橘の円の実兄の、空堀にいた昔の円馬のことである。

 聴き手は私と芸者数名と茶屋の女将、仲居、叶丸だけで
十人ほどである。
唐子(からこ)の間という広間の一部に
緋氈を敷いて枝雀が座った。
しゃべりはじめたがどうもうまく気が移らぬようで、
何か小咄を二つほどやって、
もう堪忍してもらいまっさ、どうもやりにくうて、
と汗を拭き拭き帰って行った。

入れ違って円馬が「粟田口霑(しめす)笛竹」の一節をやって、
覆面の武士が刀屋の手代の持った刀包みを奪って川へ蹴込む、
じっと水面を見込んでいる背後から、
荷足りの仙太が舟板で向脛をかっぱらおうとして
躱(かわ)される一齣、
さながら芝居を見るようで面白かった。

 空堀の小庵の床に原白隠の達磨の一幅をかけて、
手馴れた楽茶碗で一服を楽しんだ。
落ち着いた坊主頭の名話術家が恋しい。


(『上方はなし』第四集(昭和11年7月1日発行)「古童亭漫艸」より)


文章のメインは円馬です。
初代枝雀は引き立て役として
書かれてしまいました。

私は寄席小屋とは全く違った趣の部屋の中、
十名ほどのお客さんを前にして、
気乗りしなかった枝雀の気持ちが何となく
分かります。

不慣れな環境でも、
そつなく落語?をこなした円馬は、
器用な人だなあと思いました。



初代桂枝雀については、
四代目米團治の「近世落語家伝」(『上方はなし』収録)が
最も詳しく記されていると思います。

また、ええなあと思った逸話を抜粋。


(中略)
この人は何処までも実践家であって、
口先の議論は嫌いでもあり、
またはなはだしく不得意であった。
それについて面白い挿話がある。
某日警察から呼出しがあったので、
おっかなビックリ出て見ると、
昨夜落語のこれこれの個所はまずいから注意せよ
というのである。
しかしそれはいかにも警官の認識不足から出た
不当な譴責だった。

 枝雀はここが怖いところであることを忘れて、
黙って考えた。
決してこのまま服従すべきものではない。
しかし先方の間違いを指摘するには
面倒な議論を要するのだが、
これは苦手である。
自分の頭の中でさんざん理屈をコネた上、
何と口に出したのが、
「死んだ師匠が、こない演れといやはりました」
と云うのだ。
頭の禿げかかった、この大供の答えに
警官は呆気に取られたが、
なお師匠よりも警察のいうことを諾かなければいけないと
いい聞せた。
が彼は
「イエ師匠が、こない演ったらええねと、いやはりました」
とつっぱり、
けっきょく怒気さえ含んで
「あんたらにはわからへん」といいきってしまって、
みすみすいらぬ科料を取られたが、
当時警察では
「枝雀という男は少し足らぬらしい」
という定評であったというが、
ありそうな話だと思う。

こんなだから演る落語もいっさい理屈抜きであった。
といって後年の誰彼のように筋を壊すのではないから、
理は通っているが、つまり
理屈ッぽくないのである。
題材もあまり大物は手がけず
「稽古屋」、「尻餅」、「野崎参り」、「借家怪談」
といったところで、
いかにも明朗なものであった。
(以下略)

(『上方はなし』第十七集(昭和12年9月1日発行
「桂枝雀(近世落語家伝の三)」より)

※※
初代桂枝雀の落語?小咄?が
You Tubeで聴けます。
古いレコード音源でかなり聴きにくいのですが、
のっけから噴き出してしまいました。

初代桂枝雀「芋の地獄」(You Tube)
(↑タイトルからしてもう可笑しい)


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