手前味噌

最近読んで久々に感動したのが、
三代目中村仲蔵の『手前味噌』という本です。
幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎役者の、
ほぼ旅日記で、郡司 正勝先生が校注。

先生が、漢字当てと句読点を打ってくれたお陰で、
現代語訳無しで! 江戸時代の日記が読めます。



『手前味噌』は青蛙房(!落語ファンにお馴染み)という
出版社から出た本で(昭和44年刊)、
「手前味噌」の他に「絶句帳」という、
役者が絶句したり言い間違えたこと等を書きとめた、
何ともレアな面白い覚書?も収録されています。

その中に、「田舎芝居」の原話っぽい話が
載っていたので、書き写しますね。



すべて旅芝居は、人少なにて、万端揃はぬものなり。
ある田舎にて、座頭の役者、由良之介と若狭之介の役にて、
五段目、六段目は休みなれば、ほかの端役へは出られねど、
顔を出さぬゆえ、猪(しし)に出るなり。

 三段目の若狭之介、引込み、四段目の駆けつけまで、
よほど間があるゆえ、蓑(みの)に編笠を付けし猪を冠り、
隅のほうに寝ていたりしが、
例の無人手詰(ぶにんてづめ)ゆえ、
大名より竹田奴に早替り、
跡が四段目の諸士などにて急がしく、
寝ているを気のつく者もなかりしが
【唄記号】左手(ゆんで)へガバと突き立て」ト、
判官腹を切ってから、
皆みな心づき、
由良之介が見えなんだと言い出し、
部屋へきて探しても見えず、
やうやう隅に猪を冠り、寝ていたを見付け、
「モシ、出でござります」
と、揺り起こすゆえ、
由良之介、ハッと驚き立ち上りしが、
猪を冠りいたゆえ、五段目と心得、
そのまま走りゆき、すぐに花道へ飛び出す。

 囃子も、どううろたえたか、
テンテレツクと打ち出す。
猪は、いっさんに舞台へ来たり、
判官を飛び越して、
二人の上使を蹴倒すやら、
上手の襖を突き倒して走り入る。
舞台の皆々、見物も一同騒ぎ立ち、
せんかたなく幕を引く。
まことに、前代未聞の珍事なり。



(一部、旧仮名遣いを現代仮名遣いにし、
より読みやすくなるよう漢字をもう少し多く当てています。
原文通りではありません)。

私は文我さんの「田舎芝居」を聴いていたので、
あれ? 似てるかもって思ったんです。
落語では、猪が飛び出す理由は、聞き間違いをしたから、
となっていますが、腹切りの場面に猪が飛び出す、
という吃驚な光景は同じです。

「絶句帳」は、
『歌舞伎新報』第四号の付録で、
刊行年月日は、
明治12年(1879)、3月7日 です。

落語「田舎芝居」が、もし、
「絶句帳」を元にして作られたとしたら、
明治12年以降に生まれたことになり、
江戸時代に生まれた噺ではない、
ということになります。

明治12年に「絶句帳」が出版され、
江戸落語の元ネタにされた。
そして上方に移植された。
(文我さんが移したのでしょうか?)
と推測しています。


※追記
『絶句帳』には、江戸落語の「吐血」の元ネタと
おぼしき話が載っています。
この落語は聴いたことが無くて(つまり馴染みが無い)
ちゃんと確かめるまで
かなりの時間を要すると思います。

落語の元ネタとなったもの以外の話の方が、
個人的には好みのものが沢山載っていました。
「けんぺい、かっぱん」とか。
(「勘平、血判」の言い間違い)

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