落語「崇徳院」に出てくる犬について

熊五郎が「せを〜〜はやみぃ〜」
って歌いながら歩く場面で、
子どもに絡まれ、犬に
「わん!」
って吠えられる演(や)り方があります。

これに、そっくりな場面が
芥川龍之介の短編「往生絵巻」に
ありまして、びっくりしました。


以下、抜粋です。

童(わらべ)
「やあ、あそこへ妙な法師(ほふし)が来た。みんな見ろ。みんな見ろ。」
鮓売(すしうり)の女
「ほんたうに妙な法師ぢやないか? あんなに金鼓(ごんぐ)をたたきながら、何だか大声に喚(わめ)いてゐる。」
……

薪売(まきうり)の翁(おきな)
「わしは耳が遠いせゐか、何を喚くのやら、さつぱりわからぬ。もしもし、あれは何と云うて居りますな?」
箔打(はくうち)の男 
「あれは「阿弥陀仏(あみだぶつ)よや。おおい。おおい」と云つてゐるのさ。」
薪売の翁
「ははあ、――では気違ひだな。」
箔打の男
「まあ、そんな事だらうよ。」
菜売(なうり)の媼(おうな)
「いやいや、難有(ありがた)い御上人(おしやうにん)かも知れぬ。私は今の間(ま)に拝んで置かう。」
鮓売の女
「それでも憎々(にくにく)しい顔ぢやないか? あんな顔をした御上人が何処(どこ)の国にゐるものかね。」
菜売の媼
「勿体(もつたい)ない事を御云ひでない。罰(ばち)でも当つたら、どうおしだえ?」

「気違ひやい。気違ひやい。」
五位(ごゐ)の入道(にふだう)
「阿弥陀仏よや。おおい。おおい。」

「わんわん。わんわん。」
物詣(ものまうで)の女房
「御覧なさいまし。可笑(をかし)い法師が参りました。」
その伴(つれ)
「ああ云ふ莫迦者(ばかもの)は女と見ると、悪戯(いたづら)をせぬとも限りません。幸ひ近くならぬ内に、こちらの路へ切れてしまひませう。」

以下、略


崇徳院との共通点は、
主人公が路上で、
大声をあげ、
何を言ってるのか分かりづらいため、
子どもに「気違ひ」と絡まれ、
犬にに吠えられる。



この演(や)り方は、
4代目笑福亭松鶴、
2代目桂三木助
の速記本には出てきません。

5代目笑福亭松鶴の速記には、
路上と子どもは出てきます
(これだけでも画期的です)
が、犬は出てきません。


6代目笑福亭松鶴の速記本には
路上、子ども、犬が出てきますが、
犬は吠えず、
「さかってまんねん」
という、くすぐりになってます。


桂米朝さんは、
路上、子ども「チラシくれ」が出てきます。
犬は「わん!」と出てきたり(米朝全集・本。1980年〜)、
出てこなかったり(MBS桂米朝全集・高座・1992年)。


笑福亭仁鶴さん、
路上、子どもが出てきます。
犬は出てきません。
(You Tube 動画)


桂枝雀さんは、
路上、子どもあり、犬「わん!」
おなじみのフルコンボです。
…たぶん、枝雀さんから、
犬「わん!」が
広まったんじゃないかなあ。



大正14年
芥川龍之介「往生絵巻」。



それを読んだ噺家さん、
崇徳院に路上、子どもを
出すやり方をはじめる。
(子どもは「天神山」から引き抜き?)
犬ははじめ出番が無かった。想像。
(5代目笑福亭松鶴の速記や仁鶴さんの
崇徳院を見ると、犬の出てくる隙きが無い)



誰かが「往生絵巻」を読んで、
犬の出番を増やした。



6代目笑福亭松鶴「さかってる」。
桂米朝「わん!」の、くすぐり。



枝雀さんの「わん!」で定着?




えーと、
ここで唐突なのですが、
往生絵巻の元ネタは
今昔物語の
「讃岐の国の多度の郡の五位、法を聞きて即ち出家せる語 第14」
https://kimagurebi.exblog.jp/3930383/
で、
芥川龍之介は背景描写として、
たぶん「福富草紙絵巻」を参考に
したと思われます。
(それかその影響を受けた作品を見たかも)


ですので、さかのぼれば、
福富草紙絵巻に出てくる
子どもと犬が、
落語「崇徳院」の子どもと犬の
ご先祖です。

20190917212424cb1.jpg

吠える犬

○画像をクリックしたら拡大しますよ

20190918104215e89.jpg

大人をなぶる子ども


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